「華がない」ってなんだよ?
あれは確か大学卒業目前の冬休みのこと。
大学生2年生くらいから、夏休み、冬休み、春休みと、
休みのたびにバイトさせてもらっていた本の取り次ぎ店でのことです。
いわゆる普通の書店さんと違って、
お客さんは本屋さん、という取り次ぎ店。
ある日、毎日お店にやってくるお得意さんの、
本屋のセキグチさんが、
「おねーちゃん、飯でも食いにいこうか?」
といきなり、ランチに誘ってくれました。
セキグチさんは、
いつも軽妙なジョークを飛ばして楽しませてくれる、
大好きなお客さんのひとりでした。
お店のおばちゃんたちに、
「若い女の子はいいわねー。ランチだってー。」
などと、軽く妬まれながら、
セキグチさんと近くの定食屋さんに出かけました。
そこで、いきなりセキグチさん、
「で?おねーちゃん、卒業したらどうすんの?」
と来ました。
どうやら、一所懸命バイトに励む私が、
就職活動もなんにもしないで、
のほほんとしていることが、心配でたまらなかったようです。
「ミュージシャンになるつもりです。」
ただ、決めていただけで、もちろん、なんの根拠もありません。
だから、できれば人に話したくなんかないような、秘密の夢です。
でも、まぁ、ランチをおごってもらっちゃあ、
真面目に応えないわけにはいきません。
案の定、お説教がはじまりました。
お説教というよりは、説得です。
「いやー。やっぱね。芸能人とかさ、歌手とかなる人はさ、
華があるんだよ。」
そう言うと、セキグチさん、近所に住むという、
当時ちょっとだけ売れていた歌手のM・Mさんの話をはじめました。
「店の前通りかかるとさ、
『おはよーございます』って必ず声かけてくれるんだけどね、
やっぱり、こう、ぱーっと、華やかなんだよ・・・」
それからの30〜40分の間、
優しいセキグチさんは、
歌手になる人は、いかに、みな華があるかということ。
だから、お前には無理だということ。
そんな夢みたいなこと言ってないで、さっさと就職しろということ。
・・・などなどを、
私を傷つけないように直接的な表現を一言も使わずに、
延々と、とうとうと、話してくれたのでした。
毎日、毎日、プロと呼ばれるにはどうしたらいいか、
そればかりを考えて、苦しんでいた頃です。
テレビに出たいと思ったことは一度もありませんでした。
それでも、誰も彼もが、
「ミュージシャンになりたい」というと、
歌手=テレビに出る人=美人で華やか→お前には無理
と決めつけてくる。
バブル期目前の東京です。
「地味なことは罪」というような時代でしたから、
まぁ、無理もありません。
で?
「華」ってなんだよ?
業界のお仕事をはじめるようになって、
一流といわれる人にも、
有名人といわれる人にも、
それはそれはたくさん会いましたが、
OFFの時にまで
「華」というか、
「オーラ」を放っている人なんて、
そうですね・・・まず、会ったことがありません。
以前お仕事をした某有名歌手の方は、
ステージの上に立つとそれはそれは華やかで、
キラキラしていましたが、
打ち上げ会場でも、リハスタでも、
どこにいるのかさっぱりわからない。
ふと横を見たら、あれ?
いつからそこに座ってた?くらい、
「華」や「オーラ」とは無縁の人でした。
世界的なミュージシャンでも同じです。
あの、ジミー・ペイジだって、楽屋にいれば、
普通に品のいい、極々普通のイギリス紳士でした。
某有名ロックバンドのメンバーや、
某有名シンガーなどと食事に出かけたこともありますが、
お店の人は、「あれ?どっかで、会ったっけ?」
というくらい、彼女たちは極普通の人の空気感でそこにいます。
もちろん、OFFでも「オーラ」や「華」を発している人もいますが、
あぁ、気づかれたいんだな、と、
こちらが勘づいてしまうことしばしばです。
本人はOFFで、オーラを消しているのに、
受け手がオーラを感じるとしたら、
それは受け手がその人を「有名人」と知っているから。
ハロー効果です。
「華」や「オーラ」はある種のエネルギー。
それは、美しいとか、不細工とか、
そういうことではなく、
「自信」とか「確信」のようなものなのではないか。
自分がやっていることはなにか、
自分がどう見えるか、ちゃんと知っている。
そんな自分に自信を持っている。
自分を信じ、自分のやることなすことに責任を取る覚悟がある。
「華」や「オーラ」は、
そんな決意のある人に、宿る。
うん十年の修行の後の結論は、そんな感じなんですよ。
セキグチさん。
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