大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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声は、自分という人間の印象を変えるのか?

      2015/12/20

声を変えることで、自分の印象を変えることができるのか?

そもそも、声は変えられるのか?

声に悩みを持つ方なら、誰もが抱く疑問でしょう。

どんなにがんばっても、声が変わらないなら、
また、声を変えることが何のメリットももたらさないのであれば、
ボイトレに費やす時間やお金や労力は無駄になってしまいます。

答えはもちろんYES。

人の声の印象はちょっとした発声のコツを知るだけでも変化します。
声が変われば、その人そのものの印象も大きく変わるのです。
アメリカのNational Public Radioの運営するShotsで、こんな記事をみつけました。

Can Changing How You Sound Help You Find Your Voice?
アメリカの弁護士であるMonicaは法廷での自分の仕事ぶりが評価されないのは、
自分の高くてキンキンした声のせいだと気づきました。

そこで、声に関するリサーチをはじめた彼女が発見したのは、
女性的に聞こえる声の特徴は、その高さだけでなく、
イントネーションのパターンにもあるということ。

(アメリカの)一般男性の場合、
単調な音程で、たたきつけるように、スタカートのリズムで話すのに対し、
女性はより、音楽的に、さまざまな音程の幅で、話す傾向にあり、
そのイントネーションの違いが、それぞれの印象の違いになっているというのです。

また、コミュニケーションを重んじる女性の場合、語尾が上がる傾向にあり、
それが聞き手に、自信のなさや、不安として伝わってしまうといいます。

彼女が選んだボイストレーナーは、(ここがアメリカらしいんですが)
性同一性障害専門のボイスセラピスト、Christe Blockでした。

ノドを開き、口の中の共鳴スペースを広げ、大きな声をつくって行きます。
より、男性的な言葉を選んで話すことも学びました。

数ヶ月のトレーニングの後、彼女は、職場での周囲の対応に、
確かな変化を感じるそうです。

声は、その人の印象を変えるのです。

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性同一性障害の人たちにとって、声の悩みは、生死に関わるほど深刻です。

特に、性同一性障害の女性の場合、その存在を受け入れてもらえるかどうか、
心理学的に見て、声が最も重要な役割を果たします。

人と違うカラダを持ったことで、トイレに行くたびに嘲笑されたり、
あからさまな差別や暴力を受けたりする。。。
一般の人に比べて、鬱になったり、自殺をしたりする比率が圧倒的に高いのです。

だからこそ、彼らは声とスピーチのトレーニングを徹底的に受けるといいます。

女性らしい声を手に入れるため、
まずはGの音をしっかりと出せるようにする。
ハミングからスタートし、次に、その音で数を数え、
さらには、言葉を言えるようになるまでトレーニングを繰り返します。

男性らしい、たたきつけるような話し方を変えるため、
母音を長く伸ばすトレーニングも行うそうです。

すべての過程を終えるまで、ときに数年も要するこのトレーニングを、
彼らが受け続けるのは、自分の性別を超えたいからという理由ではありません。

ちゃんと話を聞いて欲しい。
存在を真剣に受け入れて欲しい。

それだけです。

ボイトレにくる多くの方が同じ気持ちです。

立派な声で話したいとか、声をほめられたいとか、
そんなことよりも、
ちゃんと向き合って欲しい。きちんと話を聞いて欲しい。

そのために、ボイトレが助けになるのなら、という想いなのですね。

 - 声のはなし

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