大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「空気読め」とか、違くないか?

   

生まれて初めてアルバイト情報雑誌を買って、
バイトを探した時は、
一体みんな、何を基準に
バイト先を決めているんだろうと、
途方に暮れたものです。

「やっぱり条件でしょ。
時給と、週何回、何時間、とかだよね。」

大学に入学したばかりで、
学校もバンドもデートも忙しかった私は、
最低限のお小遣いが稼げればいいやと、
「週2回、5時間から可。時間応相談。」という条件に引かれて、
新宿の有名デパートに入っていた、
老舗のFレストランでウェイトレスのアルバイトをはじめました。

生まれて初めての、
飲食関係でのバイトは、何もかもが新鮮でした。

さすがFレストラン。
バイトにもきちんと教育時間を取ってくれて、
ナイフやフォークをシルバーと呼ぶということから、
配膳用のトレー=トレンチの持ち方、
オーダーの手順から、ちょっとした隠語まで、
丁寧に教えてくれました。

楽屋裏のようなスタッフの休憩室や、
キッチンの中をのぞくのも楽しくて、
まぁ、私なりに、毎回楽しくバイトをさせてもらっていました。

大学の授業が早く終わる平日の午後、
そして、土曜日に5時間。
あまりお客さんが来なくて静かな平日は、
お店の中の汚れたところを見つけてはせっせと掃除しました。
土曜日は一転、戦場のようになるホールで、
時間いっぱい、一所懸命働きました。

思い返しても、なかなかいい仕事をする、
よきアルバイトだったと思います。

とある土曜日、
約束の15時に上がろうとしたら、
ボーイ長にいきなり呼び止められました。

「キミさ、土日、もうちょっとちゃんと働く気ないの?」

え?あ、すみません。
いろいろ予定があるので。

「必要ない時にばっかり自分の都合で来て、
忙しい時に知らん顔して帰られてもね。
そんなことやってたら、
社会の役に立てないおとなになっちゃうよ。」

正直、びっくりしました。
あんた、何言ってんのよ?です。

こちらは、出された条件通り、一所懸命働いています。
サボっているどころか、
仕事がなくても、仕事を探してがんばっている。
「空気読めよ」みたいな、ボーイ長の言いぐさが、
まったく納得できませんでした。

「そちらが出している条件と、
こちらの都合が合うから、働かせてもらうことにしました。
ということは、今のシフトでしか入れないなら、
私は役に立たないということなんですね?」

生意気なティーンエイジャーだった私は、
ボーイ長の目を見て、そう言いました。
ボーイ長の顔色が変わりました。

「そういうことだね」

「わかりました。やめさせていただきます。」と、
その場でバイトをやめた私には、
今思い返しても、非はなかったと思います。

いや、あったとすれば、
おとなの都合に合わせられなかったこと。
空気が読めなかったこと。

知るかい、です。

こどもの頃から、
どんなに些細なこともきちんと文書化すること、
どんな文書も、きちんと最初から最後まで読むこと、
盲判はけして押さないことを
父に徹底的に仕込まれました。

契約に厳しい建築関係の仕事をしていた父は、
おそらく、何度も痛い目ににあったのでしょう。
「文書化されたものがすべて」という思想は、
今も私の中に脈々と受け継がれています。

書いてあることがすべて。
つまり、書かれていないことは、条件にはないんです。
「空気読め」などというのは、条件を出す側の怠慢。
「全てを語らないことで効果的なウソをつく」という手法です。

だから、どんなに細かいことも、
相手に期待することは明文化する必要があるし、
文書化されていないことを相手に期待して、
相手がその通りに動いてくれなかったとしたら、
それは、こちらの責任なのです。

あの時のボーイ長の呆れたような顔は、
今も脳裏に焼き付いています。

残念ながら、私、
立派に社会のお役に立てるお仕事をさせてもらってますよ。

 

◆一生に一度、集中的に学ぶだけで、”自分で自分に教えること”を可能にするMTL 12。毎週日曜日10時〜Youtubeにて公開中。
毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, Life, My History , , , , , ,

  関連記事

マスクは「声」をダメにする!?

先日、新宿駅を歩いていたときのこと。 背後でおしゃべりしている若い女性たちの声を …

続けたいことを続ける4つのポイント

エクササイズや練習、ダイエット、勉強、日記にSNS… 何をはじめても …

人生のベストタイミングは「やりたい」「やらなくちゃ」と、ひらめいた時

“Never too late”は私の信条のひとつでもあ …

歌っている自分を直視できますか?

自分が歌っている姿を鏡で見ながら、 練習やリハーサルをしたことはありますか? こ …

年齢が気になりますか?〜チャンスはいつもフィフティ、フィフティ〜

なかなか将来の見えなかったアマチュア時代。 周りの友人たちは次から次へとお仕事を …

譜面台を立てる時のチェックポイント〜本編〜

さて、お約束どおり、 今日は、自分のための記録の意味も込めて、 「譜面台を立てる …

きっと、低気圧のせい

昨日から今日の夕方にかけて、 とにもかくにも引き込まれるように眠くて、 仕事がは …

We Love You, Jeff! R.I.P.

「私、ホロヴィッツふくめ、全音楽家の中でジェフ・ベックが一番好きなんです!」 前 …

「動画、まだヨコで撮ってるんすか?」

まわりにナマイキなことを言う「若者」が増えてきました。 いや、正確に言うと、かつ …

感性は「お茶の間」で目覚める

「MISUMI、よく聞いとけよ。歌ってのはこうやって歌うもんだ。 テレビで流れて …